この記事は、ニフティグループ Advent Calendar 2023 8日目の記事です。
はじめに
コロナに罹患してしまってアドカレ更新がすっかりおくれてしまいました。アドカレ掲載日前には書き上げていたんだよ。本当だよ。
寒いですね!って書き出しにしたらなんか妙に暖かい予報の日がふえてきました。西野です。
私はマイ ニフティというニフティ会員向けアプリでスクラムマスターをやっています。ほかにも、N1!というニフティのスペシャリスト制度でスクラムエヴァンジェリストを担っています。
というわけで、今日のアドベントカレンダーでは単なる1on1ではなく「スクラムを支援する方法としての1on1」について紹介します。
1on1の失敗
数年前、自分が初めて1on1で聞く側(コーチ)の立場になったときは、あまり効果的なものにできませんでした。聞き手としての能力不足などもありますが、1on1の目的を誤っていたことに一番の理由があったと今は考えています。
機能しなかった1on1の目的
- チームメンバーのキャリアパスをフォローする
- 抱えている課題について聞き、解決するためのアクションを出す
ぱっと見、1on1の目標としてそれなりにありがちというか、そこまで悪い感じはしないとは思います。
実際、チームメンバーの目標や課題を知る場としては悪くはありませんでした。しかし、以下の理由で効果的に機能しませんでした。
- チームメンバーの課題に対して良いアドバイスができない
- チームメンバーの目標や課題を、1on1をやっている自分だけが知っている(チームに共有しない)メリットがわからない
当時はスクラムマスターとしてではなくチームリーダーとして1on1をやっているという意識だったこともあり、なにかチームメンバーの悩みを解決したり、目標に近づけるようなアクションを自分が提示しなくてはいけないと思い込んでいました。しかし、人の課題すべてに答えを見つけられる人間なんていません。当然失敗しました。
その後コーチングについて知ったことで、今までの活動がうまくいかなかった理由がわかりました。
アドバイスは成長にはつながらない
「良いアドバイスができなかった」と書きましたが、もし完璧なアドバイスができたとしても、1on1に参加する人全員にとって意義のある時間にはできなかったと思います。
なにか課題があってアドバイスでそれがうまくいったとしても、それは成長ではありません。
スクラムマスターがチームのお母さんにならないための方法でも書きましたが、考えれば自分でできたはずのものをアドバイスによって達成させてしまったなら、成長機会を奪った可能性さえあります。
コーチングの基本である「人の話を聞く」ことの背景には「その人の中に答えがあると信じる」ことがあります。それができないまま1on1をやってもほとんど得られる価値はありません。
もしアドバイスがほしいなら、特定の人でなくチームメンバー全員に話した方がいろいろな意見がもらえたり、フォローもしてもらえるかもしれません。1on1をアドバイスの場にしてしまうことが非効率な理由はそこにもあると思います。
スクラムマスターとして1on1をやろう
この失敗をふまえて、チームリーダーとしてではなくスクラムマスターの活動のひとつとして、1on1の目的を変更しました。
うまくいかなかった1on1
- チームメンバーのキャリアパスをフォローする
- 抱えている課題について聞き、解決するためのアクションを出す
↓↓↓
改善後の1on1
- 傾聴力の訓練機会を増やす
- 相互のフィードバック機会を増やす
- スクラムマスターにしてほしい支援を伝える
以前の1on1の時に思っていた「チームメンバーを1on1によって助けたい」という気持ちは完全に捨てました。スクラムマスターとしても利があること、得になることを考えています。
この1on1の目的が、そのままスクラムマスターが1on1をやったほうがいい理由3つにつながってきます。
「傾聴力の訓練機会を増やす」のはなぜか
ただ話を聞くだけは、多くの人ができている(つもりになっている)と思います。
しかし「話を聞き、その人の中にある答えが見つかるような質問をする」という聞き方はなかなかできるものではありません。
もともとある程度の上手い下手はあれど、一人では練習ができないので他人に協力してもらい練習する必要があります。
有志でコーチングの練習をしよう
もしあなたがスクラムマスターではないとしても、将来マネジメント職を目指すなら今のうちに1on1の練習、特に「傾聴」の練習は絶対にしたほうがいいです。
現在自分は月1で1on1をしていますが、これだけでは到底訓練としては十分な回数ではありません。そのため、月1の1on1に加えて、隔週でコーチングの練習をしています。
自分のコーチングを効果的にスキルアップするためにはコーチ(聞き手)・プラクティショナー(話し手)のほかにそれを観察する「オブザーバー」が必要です。
オブザーバーを交えたコーチングの練習方法
- コーチ・プラクティショナー・オブザーバーの3人1組をつくる
- 5分間、以下を行う
- プラクティショナー:なんでもいいので相談をする(スクラムに関する相談など)
- コーチ:その相談の答えをプラクティショナー自身が見つけられるように質問をする
- オブザーバー:コーチとプラクティショナーを観察する。オンラインの場であればビデオやボイスはオフにして存在感を消す。プラクティショナーが話しづらそうにしていないか、コーチはどんな表情で話を聞いているか、よい質問ができているかなどを観察する。
- メンバーを変えてこれを繰り返す(3人であれば3回)
これを「コーチングスキルアップセッション」と題し、1on1とは別に、コーチング能力を高める場として社内の有志で集まって隔週開催しています。
ここで得たスキルをチームの1on1で発揮していくようなイメージです。
「相互のフィードバック機会を増やす」のはなぜか
プロダクトオーナー・デベロッパーはレトロスペクティブの場や、日々の中でスクラムマスターからなんらかのフィードバックを受け取る機会があります。
しかし、スクラムマスターは「スクラムマスターとして良かった・微妙だった」といったフィードバックをされる場がありません。自分がスクラムマスターとしてよりよく活動できているか、悩んだことがある人は多いと思います。
もう一点、スクラムマスターはスクラムの理解と実践を支援する立場にありますが、例えば誰かが良い行動・または改善できそうな行動をしているときに、すぐにフィードバックできるとは限りません。あとから思い返して気づくいたり、様子を見ていたら機を逃してしまうこともあるでしょう。
1on1の場でフィードバックの枠をつくれば、違和感なく相互にフィードバックすることができます。普段から問題なくフィードバックし合えている関係性であればこれは不要になってしまうかもしれませんが、チーム形成の途中にあるようなチームであれば、機能しやすいと思います。
もしかしたら、他者にフィードバックすること・されることに少し不安になってしまう人もいるかもしれません。こういうときは、一度に大量のフィードバックをしないことをお互いに約束しましょう。GOODひとつ、デルタ(改善点)ひとつくらいであれば、不安感も軽減されるはずです。
「スクラムマスターにしてほしい支援を伝える」のはなぜか
スクラムマスターは、スクラムチームや組織へのスクラム理解と確立のための支援を行いますが、その支援の方法はどこにも決められていません。また、チームのどの部分を支援すべきかも、誰も教えてはくれません。
スクラムマスターとしてチームを観察していると、チームの長所、または足りていない部分が見えてくると思います。しかし、逆にチームからスクラムマスターはどう見られているでしょうか。自分が十分に支援ができているか気になるが、それをチームメンバーに問いかけるのは難しいという人もいるでしょう。
1on1の場であれば、比較的それがやりやすいです。事前に「自分はスクラムマスターとしてスキルアップしたい。なので、スクラムマスターからどのような支援があると嬉しいか知りたい」と言っておくことをお勧めします。そうすれば、スクラムチームもポジティブな気持ちでスクラムマスターに要望を伝えられます。
スクラムマスターはスクラムを教える立場になりがちなため、自分自身の「スクラムマスター」という役割をチームに主体的に理解してもらうことは難しいのではないかとずっと思っていました。
ですが、スクラムマスターもまたチームによって育ててもらうという考えを持つようになったことで、「チームからスクラムマスターとしての課題を与えてもらう」「その課題がわかるチームになるためにスクラムの理解を促す」という好循環が生み出せるようになった気がします。
スクラムマスターが1on1をやったほうがいい3つの理由
まとめです。
- 人の課題を聞く機会が増えるほど傾聴力の訓練ができる
- スクラムマスターとしてのフィードバックをもらう機会ができる
- チームメンバーが具体的に必要としているスクラムの支援がわかる
この3つは、なかなか普段の業務の中では機会をつくりにくいものです。
もちろん1on1をやらなくてもスクラムマスターは務まりますが、1on1を行った方が効果的なアプローチがしやすくなります。特にチーム形成がまだ過渡期にあるチームだと機能しやすく、スクラムマスターにとっても得なことが多いです。
最後に:1on1は人のためならず……
1on1というと、どうしても聞く側(コーチ)が上位者で、話す側(プラクティショナー)が下のようなイメージを持っていました。
しかし、プラクティショナーだけでなく、コーチのほうもスキルアップしたいものや得たいものを明確にすることで、1on1の場を「与える人・請う人」ではなく、「与える人同士」の状態に近づけることができます。
スクラムマスターのフィードバックループをどうまわすかを考えた時に、1on1はかなり機能的だと思います。1on1は、相手のためだけでなく「自分と相手のために」やるものじゃないかと思います。
スクラムマスターがスキルアップする手段として、1on1にぜひ挑戦してみてください!
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明日は、三浦さんによる「フォースフィールドアナリシスでチームのアクションを作る」です。
一生懸命書いてる感じがslackから伝わってきたので…きっと書けてるとおもいます(圧)
お楽しみに!