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スクラムにおけるリーダーシップの考え方

初日から遅刻してすみません。12/1が日曜始まりであることを完全に忘れていました。

ニフティでスクラムエバンジェリストをしている西野です。業務では2チームのスクラムマスターをしています。

最近、シチュエーショナルリーダーシップの本を読んで実践してみたので、今回はスクラムにおけるリーダーシップについてお話ししたいと思います。

スクラムチームにリーダーは不要?

「スクラムマスターはチームリーダーではない」「スクラムチームには上下関係がないので、いわゆるリーダーはいない」という話を聞いたことはないでしょうか。

(スクラムガイドには「スクラムマスターは真のリーダーである」とも書かれてあり、混乱するかもしれませんが、これについては後述します)

リーダーってなんだろう?

リーダーと聞いてどんなイメージが浮かびますか?

社会人ならチームリーダーや上司、学生の頃なら部活の部長や生徒会長が身近なリーダー像でしょうか。最近では新しい総理大臣のリーダーシップにも注目が集まっています。

いずれにしろ、リーダーとはチームをゴールに導く力があり、組織の意思決定を行い、人が後ろをついていきたくなるようなスター性、カリスマ性を持っているようなイメージがあります。

そんな理想的なリーダーに自分がなれと言われたら困りますが、身近にいてくれたらどれほど頼もしいでしょうか。スクラムでは、そのようなリーダーを「不要」としているわけではありません。

リーダーと似たような肩書きとして「ボス」もあります。ボスという言葉には「ふんぞりかえって椅子に座り、権威的であり、指示はするが直接手は動かさない人」のようなイメージがあります。

この「ボス」と一緒に働くのは(たとえボスに心酔しているとしても)楽しいよりは苦しそうなイメージがあります。

一方で、もし「頼りになるリーダー」と一緒に働けたら、より安心して、幸せに働けそうなイメージがわくのではないでしょうか。

スクラムチームにボスは不要ですが、リーダーは必要です。

さらに、スクラムチームのリーダーはひとりだけではありません。リーダーシップが発揮できる人がいればいるほど、チームのアジリティが増していくのです。

この「チームにリーダーがたくさんいる」とはどんな状態でしょうか。

柔軟なリーダーシップスタイル

自分がスクラムにおけるリーダーシップについて意識するようになったのは、Regional Scrum Gathering Tokyo 2022 1日目基調講演にあったAgile Program Managementというセッションがきっかけでした。

このセッションで「(スクラムチームは)全員がリーダーであり、リーダーとフォロワーがシーンによって切り替わる」という話を聞き、参加者同士でリーダーシップの解釈についてかなり盛り上がった記憶があります。

この話を聞いた当初は、全員がリーダーという状況がイメージできませんでした。全員が意思決定者という状況では、進むものも進みません。「船頭多くして船山に上る」という諺もあるくらい普遍的なアンチパターンです。

ここで大事なのは、全員がリーダーという点よりも「リーダーとフォロワーがシーンによって切り替わる」という点です。

例えば、あるシーンではiOSが得意なAさんがリーディングするが、別のシーンではAndroidが得意なBさんがリーディングするという状況を指しています。

この場合、AさんもBさんもどちらもリーダーシップを発揮しています。しかし、AさんもBさんも常にリーダーではなく、お互いが得意なシーンごとにリーダーをサポートする側(フォロワー)にまわっています。

技術領域以外でも、説明が上手なCさんにチーム外との交渉をお願いしたり、精度が求められる仕事はゆっくりだが確実に仕事をこなしてくれるDさんを中心にお願いしたりするなど、成熟したチームではその人の特性や得意分野に応じて自然と場をリーディングする人が変わっていきます。

シチュエーショナルリーダーシップという考え方

当時この「リーダーとフォロワーがシーンによって切り替わる」という考え方に感銘をうけたのですが、先日同僚から「新1分間リーダーシップという本が良い」と聞いて読んだところ、この「柔軟なリーダーシップスタイル」についてわかりやすく書かれていたので紹介します。

人がどういう成長過程にあるかにあわせて、発揮するリーダーシップを変える

例えば特定の分野が未経験の新入社員と、経験済み10年目の社員が同時にチームにアサインされたときに、業務に対して同じ教え方をするでしょうか。

1年目のメンバーにはかかりきりで教えることになるでしょうし、10年目のメンバーには逆に「もっと効率的なやり方はないか」と教えを乞うかもしれません。

このような単純な例だとわかりやすいですが、現実はもっと複雑です。

対応者の分野ごとの熟練度とリーダーの接し方がかみあわないと、「わかっているのに細かく指示をしてくる」「ぜんぜんわからないのに何の指示もなく途方にくれる」といったチーム内不和がうまれます。

意識合わせ(アラインメント)対話をする

その人の熟練度の認識とリーダーの接し方で不和を生まないために、リーダーは1on1の場でこの認識を合わせます。スクラムの場合は、まずはスクラムマスターとチームメンバーで1on1をするのが良いでしょう。

自分も月1の頻度でチームメンバーと1on1をしているので、実際に以下について聞いてみました。

成長段階の認識合わせ

「新1分間リーダーシップ」の本では、仕事における発達の過程を以下のように定義しています。

  • D1:意欲満々な初心者
    • メンバーの状態:技能が低く、意欲が高い
      • 仕事のやりはじめ。なにもわからないが、指示にどんどん従って仕事を覚えるやる気に満ち溢れている。
    • リーダーの接し方:細かく具体的に指示を出す「指示型」で接する。リーダーが自らやってみせるシーンもある。

  • D2:期待が外れた学習者
    • メンバーの状態:技能が低〜中で、意欲は低い
      • 学習が進んで技能は身についてくるが、さらに見えてきた難しさや自分の技能の追いつかなさなどでやる気が低下している
    • リーダーの接し方:「指示型」と「支援型」どちらも行う。指示の背景にある意図を説明し、メンバーの意見を聞いて意思決定に加わるよう促す。

  • D3:慎重になりがちな貢献者
    • メンバーの状態:技能が中〜高で、意欲は不安定
      • できることが増えてきて、仕事に対する意欲が戻ってくる。しかし、ひとりで回せるほどの技能はなく自信をもって取り組めない。
    • リーダーの接し方:「指示型」は少なく、「支援型」が多い。メンバーとリーダー共同で意思決定を行う。リーダーは聞き役に回ってアイデアを引き出す。

  • D4:自立した達成者
    • メンバーの状態:技能が高く、意欲も高い
      • この分野においては何でも任せろ!という状態。自信もある。
    • リーダーの接し方:意思決定も含めてその人に任せ、指示はしない。その人の貢献を評価し、成長を応援する。

このように、学習段階に応じてリーダーの接し方が変わるということを説明した上で「自分がどの段階にいるか」をメンバーに確認してもらいます。

本来はタスクごとに細かく認識合わせをしたほうがいいのですが、まずは「今自分がいるスクラムチームの仕事においてどのくらいか」という粒度から始めました。

また、スクラムマスターの私から見てどう見えているかということも伝えて相互に認識合わせをしました。

自分がジョインしている2つのチームでやってみたところ、相互の認識はほぼ一致していましたが、ズレる場合は本人が思うより私の評価の方が高く感じていることが多かったです。

基本的にはメンバーの意見を重視しますが、過度に低く評価しているようであれば、事実を交えてもっとできていることを伝えることも行いました。

もし1on1のコーチ側が思うよりメンバー自身の評価を高く置いている場合は、メンバーの認識そのままで目標を立ててよいそうです。高い目標に向けて頑張ろうとするので、次第に本当にその評価に追いつくと本にありました。

全員がリーダーに「なれる」チームをめざす

上記の認識合わせはまだ1回やっただけなので、これによって具体的にチームが変わったということは現段階では起きていません。ただ、1on1の始まりのフェーズで今後も使っていきたいと思っています。

自分の立ち位置を示すものとしてわかりやすいこともありますが、個人的には、まずはこのような考え方を通じて、可変するリーダーシップのあり方をメンバーに伝えていくことが大事だと考えているからです。

冒頭に「スクラムチームにリーダーは不要?」と書きましたが、スクラムチームには、ボスや固定のリーダーは不要です。シーンに応じて誰でもリーダーの帽子を被れるようにします。

これは「スクラムマスターは真のリーダーである」というスクラムガイドの言葉とも矛盾はしません。私はこの言葉を、スクラムマスターは、チームや組織のあり方を良くできそうなトライアンドエラーを誰よりも率先して行うという意味で捉えています。

例えば、シチュエーショナルリーダーシップをスクラムマスターが率先して実施し、それを見てチームメンバーがリーダーシップを発揮してくれるとしたら、それはスクラムマスターが真にチームをリーディングしている状態といえるのではないでしょうか。

リーダーとは、その名の通り先頭に立ってものを引っ張る人です。ずっと一人でやっていたら疲れてしまうし、フォロワーも一人の背中を見て学べることは限られてしまいます。

シーンに応じて色々な人がリーディングできれば、色々な人の背中を見て学びをもっと増やすことができます。また、自分がリーディングしているときも、後ろにはリーダーになれるくらい強力なフォロワーがついているという安心感もあります。

スクラムチームは決してリーダーが不在なチームではありません。シーンに応じて誰でもリーダーの帽子を被ることができるチームなのです。

シチュエーショナルリーダーシップという考え方は、自律的なチームを育むために良い足掛かりになると思います。

スクラムにおけるリーダーシップのあり方を伝えるために、1on1などのシーンで、シチュエーショナルリーダーシップの説明とお互いの「成長段階の認識合わせ」にぜひトライしてみてください。

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