はじめに
N1! 制度でスクラムエバンジェリストを担当している西野です。
8月にCTIでCo-Avtiveコーチングの研修をうけてきたのですが、スクラムマスターにかなりフィットするスキルだなと思ったのでレポートしてみたいとおもいます。
コーチングに興味を持ったきっかけ
数年前、スクラムマスターについてより深く学ぶ「アドバンスドスクラムマスター」の研修を受けた際、コーチングをやってみるワークがありました。
スクラムチームの成長を助ける方法として良さそうだと思ったので、その研修以来1on1の場を通じてメンバーにコーチングをやっています。
スクラムチームに対しコーチングを始めたころは手応えを感じていたのですが、時間が経つにつれて
「恣意的に会話誘導しているかも…」
「アドバイスをしてしまっていないか?」
「1on1を終えたメンバーに活力を与えられているのだろうか?」
といった自身のスキルの限界を感じるシーンが増えてきて、一度きちんと学びたいという気持ちが膨らんできました。
その時ふと、「コーチング研修を受けて良かった」と言っていた人がいたことを思い出し、コーチング研修に興味を持つようになりました。
なお、ニフティのN1! ではこういった研修などに使える活動予算が年間100万円(!)もあるので、その予算を使わせてもらっています。
スクラムマスターはコーチング研修をうけるべき?
これはかなり食い気味に「YES」です。
スクラムガイドにも
⾃⼰管理型で機能横断型のチームメンバーをコーチする。
組織へのスクラムの導⼊を指導・トレーニング・コーチする。
https://scrumguides.org/docs/scrumguide/v2020/2020-Scrum-Guide-Japanese.pdf
とコーチングへの言及があります。
ティーチング(教える)ことは学校や会社で経験していますが、自分の場合きちんとしたコーチングを受けた経験はありませんでした。
スクラムマスターに必要なスキルである「コーチング」を、頭ではなく体で覚える経験は、なかなか他の手段で代替が効かないものだと思います。
そもそもコーチングってなに?
一般的にコーチというと、スポーツのコーチというイメージが強いと思います。
自分の場合コーチングについて学び始める前は、コーチは「プレイヤーになにかアドバイスをする人」または「練習をさせる指導者」というイメージを持っていました。
スクラムガイドにある「コーチ」や、ここでいう「コーチング」は上記とは異なります。
「アドバイスをする」「練習などの行動を指示する」のはコーチングではなくティーチングと呼ばれるスキルです。
コーチングは「気持ちを上向かせる」「相手の成長をサポートする」、要は「他者の在り方を支援」をすることに特化したスキルだと今は思っています。
(念の為、近年のスポーツのコーチは、いわゆる自己成長を促すコーチング要素が多くなっていると聞いたことを付け加えておきます)
コーチング研修を受けてみてどう変わったか
研修の詳細を書くことはできないのですが、もし書けたとしても「体験しないと伝わらないな」という内容が多かったので、研修を受けて気付いたことを中心にまとめます。
話題にフォーカスして人を見ていなかったと気づけた
研修をうけて一番衝撃が大きかったことは、これまでやってたつもりの「傾聴」が全然できていなかったことでした。
傾聴のつもりで自分がやっていたのは、「相手の話の内容をちゃんと理解して、次に何の質問をしようか一生懸命考えている」という状態でした。
相手の会話にどう切り込もうか考え込んでいるうちに、相手が何の話をしているかわからなくなってしまうことは普段の経験でもあるのではないでしょうか。
話の内容を深く理解することと、相手を知ることは必ずしもイコールではありません。
ほかに、メモをとりながら1on1をしていたことも、話の内容ばかりに目を向けてしまって相手を見ないことに繋がってしまっていたかもと思うようになりました。
相手の表情や声のトーン、体の動きをよく観察することも含めて傾聴です。
今までの1on1の場で、相手に意識がむいていない瞬間がどれほど多かったか気付かされました。
コーチングは異空間
「傾聴」をはじめとして、普段の会話とコーチングの対話には大きな差があります。日常会話ではまずしないな、と思うような質問をあえてすることが相手の新たな気づきに繋がります。
コーチングを日常の会話と同じ流れでやってしまうと、相談会や愚痴の発散で終わってしまいがちです。
「ここはコーチングの場だ」という違いを、コーチだけでなくコーチをうける側(クライアント)にも強く意識してもらう必要があります。
実際、研修の理解を深めるためにコーチングをやってみたときに、コーチングの場であることをクライアントが意識できず失敗してしまったことがあります。
練習として家族にコーチングをしてみたのですが、「コーチングの練習をしたい」としか伝えておらず、コーチングとは何か、この場をどうしていきたいかという前提の会話をしなかったために「何回も同じような質問をされて嫌な気持ちになった」というフィードバックをもらってしまいました。
家族間なので正直にフィードバックがもらえてまだよかったのですが、今までチームメンバーに対してこういうコーチングをしていたのかもしれないと思うと怖くなります。
効果的にコーチングを行うための聞き方や質問の仕方は日常会話とはかなりかけ離れています。研修中、飛躍した提案や、考えたこともないようなことを聞かれてクライアントとしてドキッとするシーンもありました。
研修を受けてみると、その「ドキッとする」気持ちは自分が思い悩むだけでは出ない答えに繋がることが体験できます。
一人で考えていると、どうしても思考の範囲が狭くなってしまいます。一見突拍子もなく感じる質問が、それを打破するきっかけになるのです。
このように「相手をドキッとさせるかもしれない」ような質問をする場でもあるので、受ける側とどんな場をつくっていくのかを擦り合わせないと、場が成立しないばかりか、ストレスを感じる方向に働いてしまう可能性があることにも気づけました。
スクラムマスターとしてどうコーチングを行うか
最後に、コーチングの研修をうけてみて自分がスクラムマスターとしてチームに接する上で変えようと思ったことを挙げていきます。
自律には「自分の価値観」が必要
スクラムマスター同士で集まると「どうやったらチームの自律を促せるのか」という話題があがることが過去何回かありました。
自律を養うためには「自分で決定、行動すること」を繰り返す必要があると思っていますが、そもそも決定することが苦手という人もいるでしょう。
決定は得意という人でも、決めたことを必ずやり切れる人は滅多にいません。
人が意志決定する重要なファクターとして、自分の「価値観」があります。
どれだけ世の中的に良いとされていても、自分にとって価値があると思えないことを無理に決定してしまうと、モチベーション持てずにやりきることができません。
仕事における「自分の価値観」が見つかるようチームをサポートする
仕事のフレームワークはさまざまにありますが、スクラムは「価値観」に言及していることが特徴的だと思います。
スクラムがうまく機能していないときは、スクラムにおける価値基準と、その人の仕事の価値観を照らし合わせることをしていないのではないか、と気づきました。
しかし、働くうえで何を大事にしているかをぱっと答えられる人はそれほど多くはないでしょう。自分も改めて考えると言語化が難しいです。
スクラムの価値基準は「確約」「集中」「公開」「尊敬」「勇気」ですが、その価値はわかりつつも、チームメンバーの価値観がスクラムの価値基準とどの程度マッチしているのか、あまり向き合ってこなかったと思います。
スクラムマスターとして、まずチームメンバーそれぞれが「自分の価値観」が見つけられるようサポートする必要があるのではないか?と思い至りました。その手段としてコーチングがあります。
「自分自身」に向き合うことは、多くの人が無意識に避けている部分です。
コーチングの時間を持つことで、意図的に「自分」や「自分の価値観」に向き合ってもらうことができます。
スクラムマスターは、そのときコーチとして「自分」に向き合うことの抵抗感をやわらげ、自分自身と向き合うことから逃げないように導くことで、指示以外の方法でその人の行動を変容させることができるのではないかと思えるようになりました。
過去ではなく未来に目を向けさせる
研修前にコーチングを意識して指示ではなく質問をするよう心がけていた時期もありますが、「なんでこのアクションになったの?」「なんでこの決定になったの?」という「WHY」の問いかけをしてしまうことがありました。
これは質問される方はもちろん、質問をする側も息苦しく、これを繰り返しても安心できるチームになりそうなイメージがわきませんでした。
今なら、この問いが効果的でない理由がわかります。未来に焦点を当てた問いかけではないからです。
もし同じことを問うなら「このアクションをすることで、何を得たい?」「この決定をすることはこの先どんな影響がある?」というような質問に変えると思います。
スクラムマスターとして、変えられない過去に焦点を向けるより、変えられる未来の行動に焦点をあわせてもらうほうが、よりスクラムチームの成長をサポートしやすいからです。
自分に向き合い、変化し、成長するために
私はコーチングの研修をうけてみて「スクラムチームが無意識のうちに逃げていることに対面させ、行動の変容を促し、成長を導く」ということにもっとチャレンジしたいと思うようになりました。
コーチングを通じてチームメンバーが自身の価値観を見つけ、自律的に行動できるようサポートすることは、スクラムチーム全体の成長に繋がります。
もうひとつ重要な気づきがあります。スクラムマスター自身が肉体的・精神的に元気で前を向ける状態にないとコーチは難しいということです。
自分のことでいっぱいいっぱいのときは、他人に目を向けられません。他人をみれないときは、スクラムマスターとして十全には振る舞えません。
チームメンバーが価値観に向き合うよう促すと同時に、スクラムマスターである自分自身の価値観にも向き合っていく必要性を感じています。
この自分自身と向き合う手段として、外部のコーチをつけてみるという選択肢があることを知れたのもよかったです。
さいごに
コーチングの基礎研修を受けた後のアクションとして、コーチングの学習・実践をより深めていく方向もあったのですが、今はまず自分の価値観を知る方向でアプローチしていこうと考えています。
誰の人生においても、自分とどう向き合って生きていくかは大きな課題として立ち塞がります。
スクラムマスターは、スクラムチームや組織など外側に目を向けている時間が長いです。そんな中で、スクラムチームや組織の中に自分がいることを忘れていた気がします。
コーチングの学習を通じて、他者の成長を促すだけでなく、スクラムマスターである自分自身と正しく向き合おうという視点が持てたことは大きな変化でした。
記事の最初に「スクラムマスターはコーチングの研修を受けるべき」と書きましたが、これはチームのためだけでなく、スクラムマスターの自己管理のためでもあります。
スクラムマスターが成長する一つの手段として、コーチングの研修を受けてみるのはかなり効果的だと思いました。
今は、社内にコーチ制度を導入するために、コーチングに興味がある人を集めてコーチングの価値を広められるよう頑張っています。なにか実を結んだら、この取り組みも記事にしたいと思います。お楽しみに!