はじめに
接続会員向けアプリ「マイ ニフティ」のスクラムマスターをしている西野です。
私は2024年時点でスクラムマスター4年目になりますが、どのチームでも前回とは異なるレトロスペクティブをやるように取り組んできました。
いろいろなレトロスペクティブを実施する中で、ある程度レトロスペクティブの手法(アクティビティ)のカテゴリーが見えてきたので、テーマ選びと振り返り方のコツをまとめてみました。
スクラム以外のスタイルでも参考になる部分があると思うので、ぜひ活用してみてください。
なぜレトロスペクティブをするのか
あなたのチームは世界一良いチームですか? もしそう言い切れないなら、レトロスペクティブをやる価値はあります。
スクラムガイドによれば、レトロスペクティブはそのスプリントの「検査」の場です。振り返りをしない(検査しない)というのは、テストせずに本番リリースするくらい組織にとって危険なことだと思います。
チームのよかった点や問題点を検査することで、仕事や人に対する不安を解消し、心理的安全性を確保します。そして、検査を重ねることでより良いプロダクトをつくるチームになるためには何が必要かを割り出し、成長に繋げます。
難しく考えずに、もし「最高のチームワーク」が欲しいなら、どうやったら協力しやすいか過去の活動をもとに考えるのではないでしょうか。それがレトロスペクティブです。
振り返りのフォーカスの当て方
「これについて振り返りたい」とチームメンバーからアイデアが出てくるのが理想ですが、ある程度狙いどおりに進んだスプリントが続くと、良いことも悪いことも浮かびにくくなります。振り返りのテーマを探るためのヒントを挙げてみます。
スプリント固有のイベントにフォーカスする
例えば、障害が起きた、今までできたことが今回はうまくいかなかった、新しいメンバーが増えた(減った)というようなスプリントであればテーマは選びやすいでしょう。
思い当たる出来事がなくても、ベロシティが著しく変わってないか、PRの回数、レビューの滞留時間など客観的な数字から普段との違いを見つけることもできます。
もし前のレトロスペクティブで上げたアクションが今スプリントで機能しなかった場合は、引き続きその課題について話し合ったほうが良いかもしれません。
スプリントで何が起きたかを把握する
スプリント固有のイベントが思い当たらない場合、そのスプリントで何が起きていたかを把握すること自体をテーマにしても良いでしょう。
チームのあるべき姿を考える
もし特に目立つイベントがない、または取り上げるべき問題がないと感じられる場合、あるべき姿をイメージし、その差分を見つけることをテーマにしてみましょう。
チームの状況をメタファーで捉えることで、改善点が見えてくることもあります。
今後のことにフォーカスする
今起きていないが「今後」起きるかもしれない心配ごとがある場合、それについてどんな出来事が過去にあったか、どんな未来を招く可能性があるかをイメージし、対策を考えることも効果的です。
振り返り方法の選び方
振り返りの方法には多くの種類があり、どれを選べば良いか迷ってしまうことも多いです。私が参考にしている書籍やサイトを一部紹介します。
少し見ただけでも、膨大な数があり迷ってしまうかもしれません。
これらの振り返り方法は大きく5種類に分けて把握できると考えています。GOOD/BAD系、連想、時系列、メタファー、数値化です。
GOOD/BAD系
特定の観点に基づいて、各々が思う出来事を挙げていきます。
観点を少し変えるだけでアクティビティの内容も変わるため、最もパターンが多い振り返りの種類です。
オススメのシーン
- スプリントで起きたことを幅広く知りたい時
- 意見が出やすいチームやテーマの時
オススメではないシーン
- 意見が出にくいチームやテーマの時
- 発言する人・しない人が偏ってしまう時
アクティビティの例
- KPT
- YWT
- Start-Stop-Continue
- Mad Sad Glad
- Easy As Pie
- 象、死んだ魚、嘔吐
- Starfish Retrospective
連想
前の人の意見を受けて順に意見出しをするやり方です。
連想形式のため、GOOD/BAD系で意見が出にくくても、このスタイルだと意見が出やすくなることが多いです。
オススメのシーン
- 意見が出にくいチームやテーマの時
- 発言する人・しない人の偏りをなくしたい時
オススメではないシーン
- 活発なディスカッションをしたい時
アクティビティの例
- 555
- 質問の輪
- 5つのなぜ
時系列
出来事を時系列で挙げていきます。
その時のチームメンバーそれぞれの感情を合わせて記載することで、出来事の評価がしやすくなります。
オススメのシーン
- プロダクト開発が走り始めた時
- 波乱万丈なスプリント(出来事が複雑な時)
オススメではないシーン
- 平穏無事なスプリント(何が起きたかある程度わかっている時)
アクティビティの例
- Timeline
メタファー
チームの状況を別のものに例えることで客観的に見つめて、追い風となるもの、今負担となるもの、これから障害になりそうなものなどを洗い出します。
オススメのシーン
- チームの状況を俯瞰して捉えたい時
- グラフィカルで楽しい振り返りをしたい時
オススメではないシーン
- とくにありませんが、結果がある程度似てしまうことが多いので、1-2ヵ月に1度くらいの頻度がオススメです。
アクティビティの例
- 熱気球
- スピードカー
- 三匹の子豚
数値化
チームがどの程度できているかを項目別に点数をつけることで、理想的な状態との差分を知ります。
オススメのシーン
- チームの短所がぱっと思いつかない時
オススメではないシーン
- 心理的安全性が低く、数値化することに恐れを感じる場合
アクティビティの例
- チームレーダー
- アジャイルの車輪
【その他】チームメンバーを知る
振り返りとは異なりますが、チームメンバーが増えた時にレトロスペクティブの時間を相互理解の時間にあてることがあります。(スプリントの検査としては機能しないので、別の時間でやったほうが良いと思います)
アクティビティの例
- 価値観ポーカー
- ムービング・モチベーターズ
ある程度パターンと長所短所がわかれば、具体的にどの手法を選ぶかはテーマだけでなく季節感で選んでも良いと思います。例えば夏や海がテーマの振り返りだけでも何種類もあります。季節的な要素を加えると楽しさもアップします。
レトロスペクティブの手法を毎回変える意味とは
レトロスペクティブのやり方を毎回変えていると、なぜ常にKPTなどで振り返ってはいけないのでしょうか、と尋ねられることがしばしばあります。
以前 ケース別!リモートでのおすすめレトロスペクティブ で「毎回同じ手法では観点に偏りが出てしまい、新たな問題に気づきにくくなる可能性がある」と書きましたが、最近は「お祝いは、工夫を凝らしたほうが楽しくて盛り上がる」という答えがよりしっくりきています。
そのスプリントが無事に、またはトラブルはあったものの終えられたということは、お祝いしていいことだと思います。
スプリントの最後のイベントこそ、どのスクラムイベントよりも楽しく、ポジティブに終えることができたほうが次のスプリントが良くなりそうな気がしませんか。
実際、チームメンバーが楽しんでレトロスペクティブに参加している姿や、今回のレトロスペクティブは面白かったと言ってもらえるとスクラムマスターとしてもやる気がでます。
逆に、今回のレトロスペクティブはやりにくかったというフィードバックでも、次の振り返りにつなげることができます。
毎回同じ振り返り手法では、このようなフィードバックは得にくいです。
レトロスペクティブをスプリントの中でもっとも素敵な時間にするために、今回はどんなアクティビティが盛り上がりそうか、この「GOOD/BAD系」「連想」「時系列」「メタファー」「数値化」という5種類の分類を手がかりに、工夫を凝らしてみてください。