マイ ニフティというニフティ会員向けアプリのチームで、スクラムマスターを務めている西野です。
スクラムマスターとしてPO(プロダクトオーナー)のサポートが十分にできているか課題を感じており、去年PO向けの研修を受けてきました。研修中、POとして振る舞ってみると「意思決定の怖さ」を感じるシーンが多くあり、それをきっかけとして「効果的な意思決定」について考えてみました。
POでなくとも、小さなものから大きなものまで何かを決定するときに、少し不安な気持ちになったりしませんか。
例えば、外食時のメニュー選択は、意思決定の個人的な傾向が現れる一例です。自分はわりとすぐにメニューを決められるのですが、注文を取る時に突然変更してしまい、友達に「ええ……?」と言われるタイプです。
マイ ニフティでは、意思決定の際に少しずつデータ面での理由づけができるような環境を整えてきました。今回は、データでどのように意思決定を行うかについて紹介します。
意思決定のプロセス
なんとなくする意思決定も、理由をつけてする意思決定も、等しく意思決定ではあります。意思決定には様々な方法がありますが、代表的なものについて挙げてみました。まずはそれぞれの特徴を把握しましょう。
- 直感
- 合理的意思決
- 多数決
- コンセサスをとる
- データドリブンで行う
直感で決める
「肌感でこっちがいい」「えいやで決めましょう」「経験上こちらがいいと思う」というものです。
GOOD
- 即断できる
BAD
- 意思決定者のバイアスがかかる
- 周囲への説明や説得が難しい
- 決断者も自分を説得しきれておらず、選ばなかった選択肢で迷いだす
- 効果があっても再現性がない
直感は、経験者が一番多い意思決定方法といえます。BADポイントも多いですが、最短で意思決定ができるメリットが大きく多用されがちです。
強力なリーダーシップ下でないと機能しにくく、もし機能してもそのリーダーがいなくなると意思決定ができなくなってしまうという課題があります。
合理的意思決定
すべての選択肢を比較検討し最良を選ぶ方法です。
GOOD
- 再現性が高い
- 関係者への説得がしやすい
BAD
- とても時間がかかる
- すべての選択肢を出せる情報があるとは限らない
比較検討の過程で「どのような理由で選択に至ったか」という理論がうまれるため、もしその意思決定が効果的だった場合、その成功は再現できる可能性が高いです。
しかし、現実問題として「すべて」の選択肢を出せたという証明の困難さ、それを出すまでにかかる時間は膨大になりやすいです。また、ここまでの合理性を求められるような意思決定のシーンは限られます。
多数決
多数決原理です。賛同者が多い方で決定します。
GOOD
- 即断できる
BAD
- 多数決に参加していない人への説明や説得が難しい
- 再現性がない
- 少数派の意見が無視されてしまう
多数決で決める際に重要なことは、関係者全員がその場に参加していることです。もし一部の人だけで決をとり「多くがそう思った」という説明をしたとして、関係者は納得がいくでしょうか。
選択の理論がないので、メンバーの入れ替わりや状況・気分などが影響し、うまくいったときの再現性もありません。
少数意見を支持した人との分断を招いてしまうことも課題です。
コンセサスをとる
関係者全員の合意形成をします。
GOOD
- 関係者の分断が起きない
- 合意をとる課程である程度の理論が生まれれば、再現性がある
BAD
- 時間がかかる
- コンセサスをとるべき範囲を決めにくい
みんなが納得するまでやりきることができればいいですが、そうではない場合、妥協による同調を招きやすいです。
もし納得できるまでやりきれたとしても、合意してない人・すでに合意している人の間に温度差がうまれ、モチベーション維持が課題となります。
データドリブンで行う
データを起点として意思決定を行います。
GOOD
- データを正確に解釈できれば再現性が高い
- 関係者への説得がしやすい(客観性をもちやすい)
BAD
- 一定の質のデータを事前に集めないといけない
- データを正確に解釈しないと再現性が低くなる
- 革新的なアイデアは出にくい
ユーザーの行動データなどを元にした意思決定方法です。
データを恣意的に解釈してしまわないかといった課題はあるものの、データソースを開示していればそれが正しいかという検証も可能です。
意思決定の根拠がはっきりとしているので、意思決定後の迷いや変更がおきにくい利点があります。
意思決定のポイント
意思決定は、プロダクトやチームを良い方向にも悪い方向にも動かすことがあります。何かを動かすためには、意思決定を行うことが重要です。しかし、頻繁に意思決定を変更することは、プロダクトやチームを不安定にする可能性があります。
意思決定の方法をいくつか紹介しましたが、意思決定のポイントは「選んだ理由」だけでなく、それ以外の選択肢を最良だと「選ばなかった理由」がわかるかどうかを重視すると良いでしょう。
データドリブンが意思決定に有効だと思う理由のひとつに、決定に至る論理の立てやすさがありますが、最も効果的な点は「意思決定を変えにくい」ことにあると思います。
人の意思というものは、想像以上に脆く、変わりやすいものです。そのために、主観ではなく客観的な情報をひとつでも多く持っておくことで、決定の変化や選ばなかった選択肢について思い悩むことを防ぐことができます。
データを集める、共有する
では、実際にニフティの会員向けアプリである「マイ ニフティ」で、どのようにデータドリブンによる意思決定を行なっているかを紹介したいと思います。
基本データ「のみ」をダッシュボードに表示する
アプリをリリースする前の時点、つまりデータを集める前の意思決定は、実データに基づいた判断ができません。現実が見えていない段階では、あまり確認するデータ範囲を欲張らないことが大切です。
データ収集を開始するにあたり、最も重要なのは、必要最低限の条件を満たしているかを確認することです。
- データ収集が可能な必要最低限のデータを特定できるか
- ダッシュボードの内容が必要最低限の範囲に絞られているか
上では必要最低限のデータと書きましたが、本当はリリース初期から可能な限りデータの蓄積をしておいたほうが良いです。これは、適切なデータの欠如が正確なデータ解釈を妨げ、効果的な意思決定を遅らせる可能性があるためです。
しかし、どれだけ網羅的にデータを収集しようと努力しても、リリース後には必ずと言っていいほど必要なデータが不足していることに気づきます。
いち早くデータ計測を開始することと、リリース前にデータ収集点を網羅することは相反することに注意してください。適切な妥協点を探る必要があります。
データは意思決定に活用されるため、意思決定者だけでなく、関係者全員にとって意味のある指標として可視化されるべきです。
マイ ニフティの場合、最低限の可視化として、ログインユーザーの累計と日・週・月のアクティブユーザー数をダッシュボードに表示することに決めました。
ダッシュボードに表示する内容を決めるコツは「もしかしたらいるかも」レベルの情報は省いてしまうことです。プロダクトの主要KPIや、成長にとって本当に必要な数字だけに絞ります。
画面表示やボタンタップのイベントなども取っていますが、初期段階では毎日見るダッシュボードにはあえて載せていません。毎日見る必要があるデータと、意思決定をするために必要なデータは粒度や質が異なるからです。
フィードバックを反映する
いったん最低限の情報が見られるようになったダッシュボードができたら、それを関係者に見せ、デイリーで知りたい情報についてフィードバックをもらいます。
フィードバックは、ダッシュボードの運用開始後、主要メンバー全員が1-2週間は毎日見たうえでの要望を採用したほうがより効果的です。
私たちスクラムチームの場合、デイリースクラムでダッシュボードを毎日見て、気づいたことを共有するようにしています。
例えば、デイリーでアクティブユーザーを観察する中で「回線の契約コースによってユーザー行動が異なるのでは」というフィードバックがありました。
コース別の継続率をダッシュボードに追加してからは、会員全体向けの施策だけでなく、コース別のニーズに応えるための施策も動き出した実感があります。
(なかなか見せられない情報が多いので、ダッシュボードの一部分の雰囲気だけ……)
ダッシュボードを成長させる
ダッシュボードを活用することで、データドリブンによる意思決定プロセスが促進されます。
プロダクトの成長や施策の効果を視覚的にリアルタイムで評価し、継続的な改善につなげることができるからです。
継続的な改善施策において、チームは施策立案時にその施策が数値で効果測定可能であるかを確認し、ダッシュボード上でその施策効果が可視化されるようにします。
ダッシュボードは、施策やプロダクトの成長や方向性とともに項目の追加・削除を行い、プロダクトの現状に適合するように管理し続けます。
ダッシュボードの導入・運用フロー図
ここまでの内容をフロー図にするとこうなります。
データドリブンを始めるための工夫
データドリブンは、新規プロダクトの立ち上げや、施策が少ない段階では比較的受け入れやすいです。
一方で、データがあまり取れていない既存プロダクトに今からデータを追加したい場合、「やりたいことがいっぱいあるのに、ユーザーから見えないデータ部分の優先度は上げられない」とPOに受け入れられないケースもあるかもしれません。
この場合、意思決定者は「自分はユーザーを理解しており、データなんかなくても意思決定はできる」と思っています。しかし本当は、施策を絞りきれず、何をしないかを決定できてない状態です。
開発者として、この状態を受け入れていいかは注意しましょう。主観による意思決定は、施策Aをやっている途中で、やっぱり施策Bがいいかも、と言い出しやすい環境をつくっています。
やりたい施策がどれだけたくさんあっても、10個の施策のうち、あえて9個を失敗させたい人はいません。
データがあることで、成功する施策だけでなく失敗する施策もある程度パターン化できます。やらなくてもいい施策を潰し、やるべき施策にいち早くフォーカスするためにも、データ収集と見える化はセットで必要です。
データに基づく意思決定の効果
意思決定のプロセスそれぞれに利点と欠点がある中で、データドリブンによる意思決定の意義は何でしょうか。
開発者は、POなど意思決定者の決断が効果的になるよう、データ収集とビジュアライゼーションで支援することができます。また、意思決定者が決断後に「やっぱり……」と迷わせない仕組みをつくることは、開発フローをシンプルにし、開発者自身の環境を守ることにも繋がります。
データドリブンを開始すると、よく「分析を専門的に学習したわけではないので、データを扱う自信がない」という不安の声を聞きます。
たしかに、データ分析の専門性が高ければデータ解釈の精度が高まります。しかし、どれだけ高い専門性をもっていたとしても、常に正しい意思決定ができるわけではありません。
データ分析の専門家でなくても、データを効果的に活用することは可能です。「後戻りをしない」「後から迷わない」ための意思決定であれば、もし迷う気持ちがあってもデータがその決定の妥当性を裏付けてくれます。
データを活用した戦略的アプローチ
ここまでデータの重要性を語ってきましたが、データを集めるだけで自ずと効果的な施策になるわけではないことに注意してください。
データを効果的に活用するためには、データの解釈と仮説の検証、ひいてはPOと開発の協力が不可欠です。
POが戦略を立てる際は、事実と推測を分けることに気をつけてください。そしてその推測をできるだけ推測でなくなるように検証し、プロダクト戦略を組織の目標と合致させていきます。
開発チームは、ABテスト、アンケート回答内容といったさまざまなデータを組み合わせることで、POの仮説検証を支援します。
このような多角的なデータ分析により、推測の精度を高め、戦略の破綻リスクを軽減することが可能です。
データドリブンなアプローチを成功させるには、単にデータを集めるだけでなく、そのデータを基に仮説を立て、検証し、そして戦略を調整するという継続的なプロセスが必要です。
データを基に、明確で説得力のある意思決定を行うことでプロダクトの成長に繋げていきましょう!
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